林芙美子が見た大東亜戦争 著:宮田俊行

2025年8月

林芙美子といえばやはり「放浪記」。というかこれしか知らない人が多いのではないでしょうか。私もそのひとりで、しかもまともに読んだことがありません。

しかし、林芙美子という作家については以前からとても興味がありました。彼女が疎開していたという長野県の角間温泉や上林温泉に何度か行ったことがあり、その度に名前を聞いていたからです。彼女が夫と息子(養子、実子だったという話もあり)と一緒に住んでいた家はまだそのまま残っているそうです。そして現役のまま早世した、というのもずっと頭にありました。

この本は、彼女の人生を辿りつつ、タイトルにあるように特派員(ペン記者と呼ばれていたそうです)として戦地に赴いていた話を中心に書かれています。樺太から朝鮮、満州をはじめ、南方のインドネシアやジャカルタまで行っています。そして旅の合間に恋人に会いに行ったり、行動派の女性が主人公のまさにドラマです。作家でなくジャーナリストとして成功したかもしれないですね。

写真を拝見するところ、林芙美子は小柄でちょっぴり小太りの日本人らしい顔立ちをした女性のようです。特に美人でスタイルがいいわけではないけれど、惚れっぽくてモテて常に彼氏がいる、そういう女性って時々いますよね。大抵同性から見ると「なんであの子が?」と嫉妬されますが、そういう人だったんでしょうか。
明るくて社交的。感受性豊かで子供のようなところもあったようです。自ら苦労人であるため、身分や職業で差別することなく、どんな人にも気軽に話しかけていました。著名な作家でありながら、近所の人からも慕われていたのでしょう。告別式に200人余りの一般人が集まり、家の前が黒山の人だかりだったそうです。

本中で、大変生々しい戦争の記述はほとんどありません。一緒に行動していた師団内で死亡者が出たとか、間近に銃声を聴き怖い思いをしたくだりはあります。しかし、視点が女性ならではと言えばいいのか、戦地の景色や人々の描写の方が圧倒的に多く感じます。「著名な女流作家さん」ということで、かなり厳重に守られながら安全地帯からの取材のみだったのでしょうか。

この本では「南京大虐殺は史実か」というテーマにも触れています。直後に南京入りしたにもかかわらず、虐殺やそれに匹敵するような騒ぎがあったことさえ書かれていないのです。これに関しては「林芙美子は書けなかったから書いてない」という説が言われているようです。著者はそれについて「実際になかったから書いてないのでは」という考察をしています。東京裁判もすでに終わっており、誰か本人に確かめた人はいなかったんでしょうか。その頃彼女の周囲にいた人たちはほとんど亡くなっていますから、もどかしいけれど調べるのは難しいでしょう。

マッカーサーが帰国し2ヶ月が過ぎた頃、過労や持病で相当弱っていた林芙美子は心臓麻痺で亡くなりました。48歳。長生きしてくれたら、もっとたくさんの作品を残したに違いありません。

なんとも魅力的な女性です。もう少し深く知りたくなりました。林芙美子関連書籍は引き続き読んでいきたいです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました