スイスのイメージといえば、美しい永世中立国。
スイスは、日本人だけでなく世界の人々が訪れる大人気の観光国です。可愛らしい街並み、自然溢れる森や湖、そして神々しいマッターホルンなどの山々。濃厚なチーズでパンを食べたい!ヤギたちと戯れたい!空を見ながら山の斜面でお昼寝したい!「アルプスのハイジ」世代の私も憧れの国です。
この本は「実はあまり言いたくない歴史や問題があるんです」というスイスの話が書かれています。ありがちな攻撃的な告発モノを想像しますが、文章が柔らかく著者がスイスを愛しているのが伝わります。金融業界の話など初心者向けに丁寧な説明で知識ゼロでも置いていかれることなくすんなり読めます。出版はすでに20年以上前ですが、現在も続いている問題や歴史の話なので教養として読んでおいて損はないです。今はどうなのかな?と他のスイス本も読みたくなります。
本書では、人種差別的な政策を実施していたこと、核保有国を目指していた過去があること、脱税や犯罪の温床となっている銀行の問題があることなどが出てきます。それぞれ当事者と直接話をしたりしっかり調べられています。
最も衝撃的だったのは、ジプシーと言われるユマ族の子供の誘拐の話でした。
誘拐は、ある団体から始まり地方自治体や警察も積極的に協力していました。
当時「優生学」と言われる学問では「望ましくない遺伝子は排除するべき」という考えが強かったようです。
現在の遊牧生活から定住生活に変えさせ、スイス国民として立派に就職し生きられるようにしてあげようという願いから始まったことでした。しかし、ユマ族は知能が低く攻撃的で怠惰という決めつけによって、誘拐された後は病院や施設に強制的に収容された子供がほとんどでした。運が良ければスイス人の家庭に里子に出されていたようです。ユマ族の間では「政府が子供を誘拐している」というのは知られており、親から離れて隠されていた子供もいたというから驚きです。誘拐された子供は約1000人と言われていますが、実際はもっと多い数だろうと推測されています。
次に驚かされたのは、地方分権であるスイスは市民権取得は国ではなく地方自治体が全てを決めることになっているという話です。しかも投票や面接など独自の方法で行われ、ある町では対象者の個人データをパンフレットにして町民に配り住民投票を決定するのです。まるでホラー映画を見ているようでゾッとしました。都市部ではもっと簡素な方法なのでしょうが、小さい自治体では他所から来た人の受け入れに神経質なのかもしれません。
彼らは不法移民ではなくすでに短期ビザを持っていたり、子供の頃からスイスに住んではいるけれどきちんと市民権を取れていなかった人たちです。仕事もきちんと持っているのにそういったことはあまり問題視されないのです。とにかく「スイス人らしくない」とまずは容姿で判断され、西欧以外の欧州、その他の地域からの移民には厳しい決定になることが多いとのことでした。
どちらの話も、人種差別と言われようが、自分たちの「血」を守るのに必死なのがわかります。スイスは欧州でも最も多くの難民を受け入れている国で、現在外国人の割合は3割ほど。労働を奪われる、犯罪が増える、といった移民の多い国に共通の問題があります。島国である日本に住む私たちには、国境から外国人が続々とやってくる情景など想像がつきません。今のスイスではさらに様々な課題が出ていると想像できます。
大変興味深く読了しました。これを読んでもスイスが嫌いになることはありませんでした。憧れの国、であることには全く変わりありません。
黒いスイス 著 福原直樹
2025年8月


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